アンチ・ドーピング活動

薬剤師のアンチ・ドーピング活動
1.薬剤師とアンチ・ドーピング活動

ニュースや新聞記事でよくみかける欧米でのドーピング違反例では、メダルや名誉を得るために故意に禁止物質を使用する例が多いのに対し、日本でのドーピング違反例では知識不足や認識不足によるものが多い傾向にあります。競技者はドーピング違反とみなされれば故意にドーピングを行った違反例と同様に、規程に従った制裁が課せられます。このような背景から、薬剤師はスポーツファーマシストの資格取得に関わらず、ドーピングに関する規則や禁止物質に精通し、ドーピングを防ぐ役割が期待されています。

  1. 薬剤に関する情報や知識に精通している
  2. 薬の調剤、販売を行っている
  3. ネットワークとなる全国組織がある

アンチ・ドーピング活動の大元のルールである世界アンチ・ドーピング規程(以下、世界規程)は、最初に2004年に作成されて以降、2009年と2015年と改訂されました。世界規程に伴う日本アンチ・ドーピング規程、治療使用特例(TUE)に関する国際基準、検査に関する国際基準などもありますが、薬剤師は特に禁止表とTUEについて熟知しておく必要があります。TUEについては「医師のためのTUE申請ガイドブック」が刷新されており、具体的な申請方法が解説されています。
これらは日本アンチ・ドーピング機構(JADA)ホームページに掲載されていますのでご確認ください。禁止表は毎年改訂され1月1日に発効されます。そのほかの規程も随時改訂されるため、常に新しい情報を把握する必要があります。

2.学校薬剤師とアンチ・ドーピング活動

平成20年3月28日に学校教育施行規則の一部改正省令が公布され、中学校学習指導要領に「医薬品の適正使用」が追加されました。また文部科学省は「スポーツにおけるアンチ・ドーピングに関するガイドライン(平成19年5月9日)」を策定しホームページ上に公開しています。ガイドラインではスポーツにおけるドーピング撲滅に向けた取り組みの適切な実施を図ることを目的とすると明記されており、これらも学校におけるアンチ・ドーピング活動の基礎となります。さらに、平成 21年3月9日発出された高等学校新学習指導要領では体育理論の中にアンチ・ドーピングの項目が追加されました。アンチ・ドーピング活動の観点から、具体的な教育内容は以下のようなものが考えられます。

  1. アンチ・ドーピング教育の内容
    スポーツの価値、ドーピングの定義と目的、アンチ・ドーピング規則違反、禁止リスト、治療目的使用に係る除外措置、監視プログラム、ドーピングと健康、検査方法、制裁処置、その他
  2. 薬剤師の得意分野として
    薬剤師とドーピング、薬物乱用とドーピング、医薬品とドーピング、サプリメントとドーピング、ドーピングと健康
3.公認スポーツファーマシスト認定制度について

ご興味のある方は日本アンチ・ドーピング機構ホームページよりお申し込みください。日本アンチ・ドーピング機構ホームページ内「スポーツファーマシスト」のロゴマークをクリックしますと、詳細がご覧頂けますので合わせてご確認ください。

スポーツファーマシストについて

  • 養成目的
    アンチ・ドーピングと薬物・薬剤に関する専門的な知識を有し、スポーツ現場において競技者や指導者からの薬に関する問い合わせに応じるほか、教育現場において積極的なアンチ・ドーピング教育を行う存在である。また、アンチ・ドーピングに関する適切な情報を提供するだけではなく、アンチ・ドーピング活動を通じて競技者を含めたスポーツ愛好家に薬の正しい使い方の指導、薬に関する健康教育を行う薬剤師を養成する。
  • 役 割
    スポーツドクターとの緊密な連携のもと、ドーピング禁止薬の問い合わせへの応対や、競技者の使用薬管理を行うと共に、薬物・薬剤の適正使用に関する知識の普及を積極的に行う。また、学校・地域保健活動における薬物乱用防止活動を行う。
  • 活躍の場
    • アンチ・ドーピング対策の強化
      ・中央競技団体のアンチ・ドーピング委員会
      ・都道府県体育協会のアンチ・ドーピング委員会
      ・スポーツ系大学の保健センター
      ・プロスポーツ、社会人チーム
      ・指導者講習会等の講師として
    • 一般へのアンチ・ドーピング啓発
      ・学校保健活動(学校薬剤師として)
      ・総合型地域スポーツクラブ
      ・スポーツクラブ
  • 受講条件・登録・認定
    薬剤師の資格を有する者。講習等をすべて終了し、所定の登録手続きを完了した薬剤師を「公認スポーツファーマシスト」として認定する。  スポーツファーマシスト研究会編「スポーツファーマシスト認定プログラム」JADA、発行、2008より
4.スポーツファーマシストの現場での活動

スポーツファーマシストの役割については先に掲載したとおりですが、実際に競技者に対してどのようにアドバイスできるかを考えた場合、環境と方法の構築が必要であることがあげられます。まず、ドーピングの相談については薬剤師および薬剤師会に相談できるということを競技者、指導者に広く知ってもらうこと、第二に、スポーツ競技において活動するにあたりその組織との連携をとりながら進めることが必要です。日本薬剤師会は現在、JADAと連携をとりながら環境を整えているところです。スポーツファーマシスト養成基礎講習会等においてテキストが配布されますので、詳細はそちらをご覧ください。以下に概要を掲載致します。

  1. アドバイスの仕方
    • 質問者の氏名、連絡先、競技種目、現在服用している医薬品・サプリメントの確認
    • アドバイスにあたっては「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック」等を活用
    • 医薬品名を確認する場合は必ずフルネームを確認(現物もしくは包装、病院・薬局で発行される薬剤情報提供用紙等で確認できるものを用い判断)
    • 直接相対してアドバイスすることが望ましいが、それが不可能な場合は出来る限り聞き違いを防ぐためにファックス、メール等の文字媒体を利用
    • 競技者が医療機関で治療を受けている場合、TUE(治療目的使用に係る除外措置)や申請対象薬についての情報提供を行い、必要であれば選手等に体育協会、所属競技団体への報告を促す。
    • 不明な点については自己判断を避け、都道府県薬剤師会情報センターのホットラインにて確認
  2. 講演会などの教育活動
    競技者や指導者は競技レベルによってアンチ・ドーピングへの関心度に差があるため、対象に応じた情報提供が必要
  3. 学校における教育・啓発活動
    学校薬剤師とドーピング防止活動を参照
  4. 国体開催時のアンチ・ドーピング活動
  5. 競技団体等における活動
    都道府県体育協会や中央競技団体には医事委員会(名称は異なる場合もある)があります。アンチ・ドーピングのチームリーダーとして医師が指揮をとっており、そのサポートとして指導者、アスレチックトレーナー、栄養士などがいて、大会や遠征、合宿などに帯同スタッフとして同行します。スポーツファーマシストがスポーツ団体で円滑にアンチ・ドーピング活動を進めていくためにはその組織を理解することが大切です。

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